けせん震災と昔の記憶

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産業
田舎町に変化の小石を投げ続けた女性

見出し「産業」

2021.1.26  お相手:菅野琢子さん

陸前高田市横田町。のどかな里山と清流気仙川が流れている静かな農村地域に、伝説のように語り継がれるおばちゃんたちがいます。
“産直の売上で、ハワイ旅行に行ったおばちゃんたち”。
おばちゃんたちがどうしてハワイに行けたのか。それからどうなったのか。
当時代表を務めていた、菅野琢子(かんの たくこ)さんにお話を伺ってきました。

 

 

素人が集まって100円店からのスタート

琢子さんは「川の駅 産直よこた」の前身である産直の立ち上げから関わってきました。
在宅看護をしていた姑を看取った琢子さんが婦人会に入り、会長から声がかけられました。市から野菜の直売所をやってみないかと話があったっそうです。琢子さんが先頭に立ち、農家の女性たちを集めました。最初の参加者は14人。JAの協力はありましたが、素人が集まってゼロから作るのは大変だったと話します。売り場の小屋を作るときは、旦那さんたちにも召集をかけ破棄予定の電柱を貰ってきたり、家族も一生懸命手伝ってくれました。まさに手作りの産直だったそうです。
「JAよこた直売所」がオープンしたのは平成6年。収入が少ない中で、「豆腐1丁買えるくらいの値段で野菜を売ろう」と無人販売から始めた産直。値段はなんと全部100円。その値段や新鮮な野菜が話題となり、瞬く間に大好評となりました。

みんなで頑張ってハワイ旅行

順調に行っていた無人販売ですが、売り上げが伸びてきたこともあり有人販売に切り替えました。そして、お客さんの希望を書いてもらうノートを置くなどの工夫もしました。JAの勧めで他の産直の視察にも行きました。評判を聞きつけ、一関や気仙沼からお客さんが買いにきてくれることもあったそうです。
「売り位上げが伸びていくから欲が出てきたんですよね。」と語る琢子さん。当時のステータスだったハワイ旅行を目標に掲げました。気持ちが一つになり、より仕事に邁進できたそうです。

川の駅よこた1

 そして、平成10年に家族も一緒に念願のハワイ旅行へ。海も綺麗で、ゴミ一つ落ちていない素敵な街だったといいます。
“町のおばちゃんたちが100円で野菜を売って、ハワイ旅行に行った”出来事はみんなに知れ渡り、後に語り継がれることとなります。
ちなみに、この数年後には韓国にも行ったそうです。

川の駅よこた2

「川の駅 産直よこた」「母ちゃん食堂『せせらぎ』」オープン

平成19年、産直施設や食堂、グリーンツーリズム(農村や漁村で自然や食事・文化などを味わいながら滞在する)の交流施設である「川の駅 産直よこた」がオープンしました。それに合わせ、地元農家の女性たちが集まって食堂をオープンさせました。
地元に流れる気仙川をイメージし、つけた名前が「母ちゃん食堂 せせらぎ」。
当時料理人として働いていた琢子さんの息子さんを頼りに、レシピやメニューを設定しました。

 田舎らしい・横田らしいメニューをと考案したのが「カニのふわふわ」です。「カニのふわふわ」は平成21年、食の匠として岩手県の認定を受けました。
その後琢子さんは腰を痛め代表を退きましたが、地域のお袋の味としてみんなに愛される食堂になりました。
東日本大震災の際は、地元の消防団に炊き出しをするなど、後方支援を行いました。

そして若い人たちへ

母ちゃん食堂せせらぎは、スタッフの高齢化のため、令和2年1月に惜しまれながら閉店しました。
しかし、琢子さんの息子さん夫婦が令和2年4月に新たに食堂「はしもっちゃん」をオープンしました。菅野家の屋号である「橋本」から店名をつけたそうです。
琢子さん直伝の「カニのふわふわ」も、新しいお店でも変わらず提供されています。

川の駅よこた3

 何にもない田舎。そう言ってしまうのは簡単ですが、力強いリーダーシップで横田町に変化をもたらし続けた琢子さん。
「今は若い人たちのことだから、何にも言いません。」と言っていましたが、恐らく言いたいことややりたいことは山ほどあるのでしょう。
そんな琢子さんの暖かくも厳しい眼差しも、私の息子を見ると穏やかな笑顔に。
地域の歴史を私も知り、子どもにも伝えていきたいと思いました。

取材者:けせん地域取材チーム くまちゃん

プロフィール写真 

 

菅野琢子さん


陸前高田市横田町生まれ。同じ横田町に嫁入りし、姑を看取ってから婦人会の活動を始めた。「JAよこた直売所」では立ち上げから関わり、代表を務めた。その後、「母ちゃん食堂『せせらぎ』」でも代表を務めた。横田の婦人会の活動をまとめた冊子を編集したこともある。現在は自宅でゆっくりのんびり過ごしている。あんこを炊く達人で、羊羹は絶品。彼岸の時期におはぎを産直に出したりしている。