2020.12.26 お相手:新沼與己さん
大船渡市は水産の町。古くから水漁業を基幹産業としてきました。
東日本大地震では、湾内の牡蠣棚は壊滅的でした。
今回は、漁協監査員をしている、新沼與己さんに漁協幹事の仕事の内容や、大船渡の震災時のお話、漁業の課題などを、伺ってみました。
漁協監査とは
漁協は、組合員の生活の安定確保及び社会的地位の向上を図るため各種事業を行うことを目的とした団体です。監査は漁協の経営状況や業務が適切に行われているかどうかをチェックするもので、漁協の安定経営に大きく寄与しています。
業務監査は、年に2回 9月30日と3月31日に行われ、監査員は、年間に10回くらいの理事会や会議などに出席しています。
大船渡と漁業
大船渡市は岩手県でカキ養殖が行われた最初の場所です。東日本大地震では養殖いかだが流されるなど壊滅的な被害がありましたが、国内はもとより世界中の皆様から多大な支援を受け、10年目を迎える今、漁業も震災前に近いほどに復興しています。
岩手県の南部に位置する大船渡市は岩手の湘南と言われています。世界三大漁場の一つである三陸漁場に面し、海洋性気候で夏は涼しく、冬は比較的温暖という希少環境に恵まれて、豊かな海の恵みによって古くから栄えてきました。リアス式海岸の入江は深い静穏な漁港を有し、カキやホタテ、ワカメなどの養殖漁業が盛んです。三陸物の海産物は、魚市場では、例年高値で取引される競りの目玉。市場で高い評価を得ており、全国的なブランドを確立しています。
新沼さんの「水産業の復興なくして本市の復興はなし」との言葉が印象的でした。
震災の日
大船渡市盛町の新沼與己さんは、大船渡市役所を定年退職後、漁協の監事として15年勤めてきました。
震災の日は、何日か前に北海道沖で発生した地震の影響で小さな津波が起こり、湾内で養殖していた牡蠣棚が移動したので、船に乗って調査をする予定でしたが、たまたま幸いにして中止になりました。
新沼さんは当時のことを「船の上にいるときに地震が来たら大変だっただろう。調査が中止になったため、所用で越喜来にいた時に地震が来た。道路に水が溜まってしまい、車で夜が明けてから家族がいる盛小学校の避難所に帰宅した。」と振り返りました。
震災から10年の今
震災前の水揚げ水準に回復しつつありますが、一方でエルニーニョによる海水温の上昇や海洋環境の変化、乱獲などにより、水産資源は枯渇しており、水産庁ではこれらに対応するため、タック制度の導入したり、作り育てる漁業の推進を図っているそうです。
大船渡漁協においても天然の漁業資源の適切な採捕のため、開口日の設定や漁獲制限などを行いながら、漁場でのアワビ・ウニが共生可能となるよう、異常繁殖のウニの間引きや餌となる海藻を育てるため、海中林の造成なども行っています。
新沼さんは「漁業は海が伴うので命の危険が伴う過酷な仕事。収入が多いのでやり甲斐はあるものの、少子高齢化による漁業離れや後継者対策が課題となっている。市や県の行政機関では、水産アカデミー受講者に1年間給料を支給しながら後継者対策を推進しています」と話していました。
幅広い人との繋がりから新沼さんを頼りにしている人も多く、「もう歳だから」と笑って話してはいましたが、これからも漁業に貢献し若手に愛情のある指導していくことでしょう。
取材者:けせん地域取材チーム あ~きぃ
新沼與己さん
大船渡市在住。大船渡市役所職員を定年後、漁協監事として15年従事している。大船渡の漁業の発展、及び現在はユニバーサルデザインによる「人に優しい町作り」の為、岩手県の推進協議会委員や故郷回帰運動にも参加している。