2021.1.17 お相手:鈴木和男さん
実は、養殖わかめの生産量で全国トップを誇る岩手県。岩手のわかめは味が美味しく肉厚で、初めてとれたてのわかめを食べたら、思わず感動してしまうほど絶品なんです。
今回、その養殖わかめに関してお話を聞かせてくださったのは、広田湾漁業協同組合で理事を務める鈴木和男さん。水産高校を卒業後、サケやマス、サンマ、マグロなどの漁を経て、現在は養殖わかめ漁に注力されているベテラン漁師の方です。
絶品の養殖わかめのこれまでや実際の漁のやり方、今後の展望まで、ご紹介します!
養殖わかめのはじまりと美味しさのヒミツ
養殖わかめ漁が陸前高田で取り組まれるようになったのは、和男さんが約10歳(1965年)頃のこと。当時、根岬にある家約100軒のうち50~60軒は養殖わかめをやっていたほど、盛んな産業でした。
ちなみに、なぜ陸前高田の養殖わかめがここまで美味しいのか。その秘密は、三陸沖にあります。
北から流れ込む親潮と南から流れ込む黒潮など、様々な海流が入り組んでおり、豊富な栄養分が供給されること、厳しい海流にもまれることによって、肉厚で弾力のある美味しいわかめができあがるのです。
当地域ならではのご馳走
早採りわかめのしゃぶしゃぶ
和男さんの絶品とれたてわかめ
養殖わかめの取引価格は、震災よりも昔の時代は10キロ当たり3000円ほどと、かなり安価な時代もあったそうですが、現在は1万5000円ほどまで価格が上がってきています。
生産者が少なくなり、在庫も限られているという背景があるそうです。
和男さん自身は水産高校を卒業した後、サケやマス、サンマ、マグロなどの漁をしていましたが、父親が養殖わかめ漁をやっていたこともあり、36歳から養殖わかめ漁に携わるようになりました。
養殖わかめを始めて10年ほど経った頃には、自ら小型漁船を購入。その後も養殖わかめ漁を続け、広田湾漁業協同組合で理事を任せられるほどになりました。
そんな養殖わかめ漁のプロがどんな取り組みをされていたのか、これからご紹介していきたいと思います。
養殖わかめ漁って、どうやるの?
わかめの養殖は、1年サイクルで行われます。7月頃にわかめの胞子葉(めかぶ)から胞子を放出させて、採苗器(種糸)に付着させ、その種を海中で生長させます。(この種の育成がなかなか難しいそうです…!)
11月頃には種糸を養殖縄に巻き付け、約3~4ヶ月 かけて生長させます。その生長をより促進するため、刈り取りの前に間引き作業を行うのが1月頃です。そして、3~4月頃になったら生長したわかめを刈り取り、収穫します。
この刈り取り作業ができる期間は漁協で4月までと決められており、1日でも過ぎてしまうと、もう刈り取りができなくなってしまいます。
より立派なわかめに生長させつつも、期日までに収穫を完了できるよう段取りをすることがとても重要になってくるのです。
海に浮かぶ和男さんの漁船
広田湾の「パイロット事業」
和男さんは独自に「パイロット事業」という面白い取り組みをされています。
通常、収穫したわかめは3~4月に出荷されますが、冷凍庫をうまく活用しながら、適宜出荷していくことで、なんと7月まで出荷することを可能にしているのです。
具体的には、収穫した3分の2程度のわかめを半脱水の状態で、2つの冷凍庫に保管しておきます。ちなみに、冷凍庫は家庭用とは比にならないほどの大きさで、木箱700個分もあります。
半脱水のわかめが満杯に入っている状態の時の冷凍庫の重さは、なんと約12トン!規模の大きさに驚きました。
この仕組みを構築しているからこそ、より多くの養殖わかめを生産し、長期的に出荷を行って仕事の負担も分散しながら、収益を上げることができているのです。
現在は、このパイロット事業の委員長として、14名をまとめる立場も務めていらっしゃいます。
お隣の大船渡市はわかめ養殖発祥の地。
民宿海楽荘に立つ石碑。
養殖わかめ漁の魅力と難しさ
この養殖わかめ漁、年間でどの程度の収益が上がると思いますか?
私も聞いて驚いたのですが、上手くいく年にはなんと、年間2000~3000万円もの収益を上げられるそう!一般的には、1000万円に届けば御の字と言われます。(収益のうち、600万円ほどが人件費、200万円ほどが資材費にかかります。)
また、養殖わかめ漁には難しい一面もあります。実は、わかめも「病気」にかかってしまうんです。
例えば、わかめに寄生する寄生生物(タレストリス)がわかめにくっついて腐ってしまうケース。7~10日経つと卵が産みつけられ、それに気づかず1か月経った頃には、わかめ全体に広がってしまいます。
その他、トマトが腐ったような強烈な悪臭を放つようになってしまう病気もあり、海の状況もコントロールできるものではないので、なかなか難しい部分もあるそうです。
養殖わかめ漁のこれから
難しい一面もある養殖わかめ漁を、独自の取り組みを行いながら長く続けてこられた和男さん。現状、和男さんには跡継ぎの息子さんがいますが、全体を見ると後継者が不足していることを課題だと感じられています。
現地の方々と一緒にこの課題を解決できないか、模索している段階だと語っていました。
少しでも興味があるという方!繁忙期は猫の手も借りたいそうなので、ぜひ刈り取りや芯抜き(採れたわかめを「茎」と「葉」に分けること)の作業のお手伝いに加わってみてはいかがでしょうか。
わかめ加工作業の様子
取材者:けせん地域取材チーム ひとみん
鈴木和男さん
陸前高田市在住。水産高校を卒業後、サケやマス、サンマ、マグロなどの漁を経て、現在は養殖わかめ漁に注力。陸上かりとり機の導入や冷凍庫の活用など、様々な取り組みに挑戦している。岩手県養殖わかめ対策協議会で会長も務めていた。現在は、広田湾漁業協同組合の理事や、パイロット事業(冷凍庫に収穫したわかめを保存することで、長期間にわたる出荷を可能にする事業)の委員長を務めている。